第8章7・天印「寶」の降臨
約1300百年、歴史の中に消えた天印「寶」は、古陶器の鬼才で県内在住の吉田翁(現在93歳)より
富山藩の伝来品として、今ひとつ中国の“幻の壷”と共に、私の約7年越しの悲願が通じ、約5年
前に翁の命脈を託され譲り受けたものです。
翁の説明によれば、この「寶」は、中国「元」の時代の動乱期、中国の高僧が海を渡り、鎌倉の寺
に安すんじたとの事です。
その後、戦国期・前田利家の手に渡り、そして時代を下げて分藩富山に引き継がれたといわれます。
明治の廃藩により富山の豪商へ、そして没落により戦後間もない頃、翁が破格値にて落札したとの事です。
当時、翁は大八車一杯の骨董品を処分して、さらに親戚がらお金を借りて手に入れたとの事でありま
す。
翁の古美術にかける執念と胆力、そして蓄積された博識の深さは、古美術の“博士”と呼ぶに相応し
きお方です。
古美術に向き合う情熱と真撃な心は、長く語り継がれるでしょう。
本書に載る、広瀬氏の力作「神仙降臨の図」は奇しくも翁の姿そのものです。
翁は私の師、博士“老”の方です。
翻って、なまじ「寶」の出所に執着するレベルでは、「寶」の実相を観ることは無かったであろう。
天印「寶」の渡来が「安史の乱」の動乱期か、「宋」の交易時代か、「銭屋五兵衛」の時代か、近代か「寶」
のみぞ知る。
今、この「寶」は、私の手を離れ、幻の瑠璃壷と共に封印されました。
私自身も手の届かぬ、見知らぬ所に安置されたのです。