第4
章3・「風伯」「雨師」「雷」の天





 印台側面にある雲の紋様は、当初何百年の歳月の間に、時として誰かが押印した印泥油

の滲みの波紋ではと、何気なく考えていたものが、実はこの「寶」に欠くべからざる道教

の自然神、「風伯」「雨師」「雷公」の三神を秘める為の雲の模様でした。古今の名工も

焼き切れないであろう、あまりに自然な雲、その飛雲の様に気付くには時間を要しました。

 天神は、その姿を無闇に現さない、通常焼き物は絵筆により絵付けを施し焼き付けをし

ますが、「寶」は前項で述べた雷神を隠す為、嵌入を施し、それと合わせて風伯・雨師を隠

す為、雲の模様を焼き入れたのです。

 焼き物の五材(五行)による陶化の天象“窯変”と“嵌入”、この予測不可能な二つの奇

跡の結実を、絶対的「意思」と“明確な創意”をもって焼き上げたのです。通常は焼き上

げ不可能な印台の厚さで、しかも方形で、さらにその寸法は1mmの誤差もない、天地の

寸法一・五・九の数位です。

そして、この三神を挿入する為に、嵌入と窯変を一体化させたのです。

 しかも、天地人の微妙な三色、印台側面の地肌は、神仙降臨が住む蓬莱山の岩肌の如く

薄く染め上げています。印台は神仙降臨の序曲の情景です。

 そのありさまを次に「光の序曲」と題して描写してみます。

「光の序曲」

岩肌は深い霧と雲に覆われ断崖絶壁は天を突く。

一転にわかに天地は騒ぎ風雲は急を告げる。

聖山を隠す霧と雲は一陣の風と共に飛燕と化し、瞬く間に渓谷の岩肌を縫い断崖を滝に化

え一気に濁流となる。

 天地の狭間は、消され、その闇を突く濁流は飛龍と化し全天に躍る。

 天地四海は波打ち龍神の海と化す。

 大地を揺るがす轟音は“一閃”“陰陽”の“裂け目”を現し天地一切を“白”しめる。


 もはや“風伯”“雨師”“雷公”の競演です。

 息をもつかせぬ激しい雷雨は天地、一切を掻き消し全てを浄化する。


 ひと時ののち・・・時は消え“・・・・天地鎮まり・・・・・・”“無音のシンフォニー”

と共に“雲開き”神仙降臨を告げる“御雷光”は微かな七色を帯び、手にも届きそうな“光

の華”となって、眩しく差し込むのです。

・・・・・。

 以上一連の天変ドラマをイマジネイトさせる見事な神雲を描いたのです。

 もし、この天隠の手法を我々が創造したと仮定しても、その現実は果てしない不可能の

世界への挑戦となるでありましょう。

 正に嵌入と窯変の奇跡で焼き上げた、“薄墨の中国山水”水墨画の神髄です。