第1章14・官窯と神噐の儀礼
神噐「寶」制作にあたり、まず道教の最高神にあたる「北極星」に上奏し、卜筮を占い、
天の利・地の利を得るべき「寶」誕生の地となる窯場の選考がなされた。
ついに聖地は決定され「勅」は発せられた。
聖地は清められ、関係者及び動員されたものは数万を超える。
勅令の窯は、台地に各々方形三層の段を築き、さらにその上に天を象るドーム状の丘陵
を盛り、東西南北、四方と中央、五つの「五行」を象る山を築く、築かれた山はさながら
天円地方を象るピラミッドである。
この人工の山の頂上にこの章10で紹介した神々が祭られた「祠」が建つ、屋根には「龍」、
そして邪気を祓う銅製の獅子が四方八方の方角を守護する。この丘陵斜面に巨大な「登り
窯」が設けられ、東は「青」・南「赤」・西「白」・北「黒」・中央「黄」と五行の幟が旗め
く。
「五行」は「寶」の印文中央「五文字」日と月、陰陽が交合し木火土金水が相生相剋す
るところ「五」は易の陽爻で天の位である。
「天円地方」宇宙を現す大壇は四方に囲まれた中央に設けられ、壇には陰陽五行思想の
宇宙の法則に則り、木火土金水、五色の土を盛り、山海の品々を捧げ、祭壇両側に日月の
旗がはためき、道冠を戴いた道主皇帝が中央道壇に正座する。そのおん前、一段の大壇上
には火神を招来する護摩が焚かれ“老荘”の再来と謳われる“謎”の「大宗師」が天地人
三法を現す秘法の印を結び、天と地を指差し呪文を唱える。
そして真北、北極星の方角、宇宙の最高神“原始天尊”に神噐「寶」の成就を祈願し王
朝の祖霊に祝詞を奉じ、四方を拝し、邪気を祓い、請神の呪術をおこない、天地の神々に
神噐完璧「寶」焼成の祈りを捧げる。
おびただしい数の道士がその両側、東西に列をなし、天磬・地鐘、陰陽のドラ鳴らし、
楽と太極の舞いを奉じる。その後方には関係者が斎戒沐浴し衣服を改め参列する。
中央祭壇に点火された火神は、以後道士達に守られ、請神の呪術は昼夜問わず完璧成就
まで果てるともなく唱えられる。そして中央と四方の窯に移された聖なる火は完璧成就の
暁まで、絶える事なく順次点火され窯は天地開闢の炎となって陰陽五行・相生相剋の活動
をはじめる。
この陰陽の格闘と五行相生相剋の循環は、巡る四季と歳月を消し去るほど天地創造の果
てしない炎となる。
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歳月は流れ、ついに天地人は一体となり陶工達の執念と祈りは通じ、天地は混沌を脱し
天下は治まる。
本書天地の第一歩、第1章1で述べた「甄陶」陰陽五行の宇宙すべての天下はついに治
められ、「寶」は焼成され、道主皇帝が天下を「陶治」する日を迎える。
五つの窯と山は祓われ、焼き上げられた「寶」は「完璧」へ最後の仕上に向け、皇帝の
数位、「一」と「五」の次爻、15爻に造営なった神宮に厳かに移された。
大方のお叱りを背に次項へと進む。