第1章9・印面篆刻絵画

 この「寶」の印面は、当然、文字を印す

ために篆刻したのですが、文字の字体を、

只たんに見るのではなく、深くうかがって

“観”ると、印面全体が一枚の壮大な絵画

となって観えてきます。

 これは私の今日までの経験及び体験そし

て焼き物を観る目がそうさせるのか分かり

ませんが、とにかく何らか三体の仏像に観

えたり、仏教で言う曼陀羅図の様に観える

のです。

 特に、「老」の文字は「君」の台座の上で「老子」が微笑む姿として、また「飛龍」「麒

麟」などの神獣の姿として映るのです。

 まさにこの「老」の姿、形こそ変幻する老子を象形したものです。また「老」・神の意思

を天下に「勅」令する「君」は皇帝でもあり、開祖老子を戴く天子の姿、その感激の表情

などに映ります。この神秘の篆刻象形を“観る”ことこそ、「寶」表裏の関門、登龍の門で

す。恐らく、この印面の文字の象形は「道先仏後」と自負する道教の曼陀羅図を意識して

彫りあげた絵画であると思われます。

 漢字は象形文字といわれる位で、形を象形化し、それが進化発展をとげたものです。古

来、中国人は、漢字を神の化身と信じてきました。漢字で道教宇宙の絵画を描いた、発明

者の自負、道家の誇りが観えるようです。「老」「君」の篆象、そして「日」と「月」を囲

った□(○・星を現す)、この円を加えた意図と、「龍」を秘めるであろう九畳篆などの象

形にハッキリと観えるのです。

 恐らく、この印面は道教が説く宇宙の遥か大羅天の彼方にいるという、大宇宙の最高神

「元始天尊」と、天上界三宮殿に鎮座する「玉清天尊」「上清天尊」「大清天尊」の三神を

描き、日と月が耀く時「太上老君」が龍を従え道の真理を教勅する姿を描いた道教絵画なの

です。もちろん「老」の文字は「獅子」の姿でもあり、この時神獣「白澤」も現れるのは黄

帝伝説の通りです。

 第1章9ここはまさに三神が鎮座する「九」数位太上の天上界です。



 天印三桁体は印文は、この三神(三清)を現したものである。
『道教史』66より転載