第1章11・「老」の文字と神々の星の一考察




 太古より人間は、その時々の喜びと悲しみ、また遠い昔と未来を思いやる時、夜空を見

上げ、その願いを星に祈り、遠くに光るその星を“願い星”として万の神々と重ね合

わせてきたのでしょう。

 中国文明の偉大な創造として漢字が挙げられますが、『大漢和辞典』の「漢」の語訳をみ

ると、冒頭に“天の川”とあります。

 すると、大漢とは漢字の大宇宙のこととなります。太古に○(太極)を両側から“ビー

ン”と引き伸ばし、「一」の文字と卦す。天を示す「一」陽は地にそそぎ「二」に分離する。

は「一」となり、そして陰陽の「二」の文字、天と地をまず形どる。そして天地、陰陽

を現す「二」の狭間に「人」が生まれ「天」の文字が象形され天・地・人、大自然界が“天”

の一文字に“太極”(象形・凝縮)される。「一」の交合の大河、それが「漢」の意味“天

の川”であろう。『大漢和』に込められた著者諸橋博士の祈りは、漢字の大宇宙を天高く指

し示すことだったのであろう。

 『易と日本の祭祀』(文献2)で吉野裕子博士は、「易」について深い洞察をもって平易

に整然と解説しておられ、数々の著書は本書を理解するための道標であり“必見の書”で

す。著書の中で、易の陰陽の“はたらき”天・地・人の三才について明快に説明なされて

おられます。

 その中で易の陰極の数は「六」陽極の数は「九」と述べられておられます。

正に「寶」の中央「老」の文字は“六画”で陰極の数であり大地の中央に位置していま

す。それはまた漢大宇宙、陽極の「九文字」宇宙にあっては中天に位置して、陰極ですから

“夜空”の遥か“玄”の彼方に星座しています。

 陰の極数が中央に配当されるのは、直感的に不自然さを感ぜられる方もおられるでしょ

うが、しかし考えるに、人は母の体内より生まれ、万物全ては母なる大地より生じます。

地は陰であり女性ですが、その上昇進化したものが男性と想像します。

 獅子と龍一体の子を宿す腹の鱗は陰極六枚、背は九枚、陽極です。

 そして印文の篆刻は文字となる「陽刻」彫りですが、その場を浮き出す影は陰の宇宙なので

す。

 即ち陰陽が表裏合体し、陰極の「六」と陽極の「九」が、交合しているのです。

 吉野博士が唱えられる交合、星の瞬きであり、正に極と極が感応し、交合状態で点滅し巨大

な光を発しているのであります。

 さらに「太上老君」である老子は、日に九度姿・形を変える“変幻の術”を使うと聞きます、絶

えず変化し活動しながら瞬き、光を放っているのです。

 恐らく中央「六」の陰極の数は、万物発祥の地でマグマの如く、再生活動を活発におこ

なっていると考えられます。

 そして、その変幻の術を使い、もし万に一つ完璧さが欠けたり、整合しない不確定な状

況が生じた場合、何時でもあらゆる数位に変身し補完する、正に“神の数位”なのです。

 おそらく、神字「老」は老の文字の原形に、「北斗七星」を重ね合わせた、象形文字、道

教の最高神「元始天尊」の巨大な光と考えます。

 よって本書はこの押印の「老」の文字を封印し、一切非公開と致しました。

 この「寶本」の神髄とも言うべき、漢大宇宙の扉を開いて戴いた吉野博士に、この場を

借り深く御礼申し上げる次第です。

注・陰陽は表裏一体、逆も真なりで、陰陽の発生は混沌です。

  また『漢字の起源』(文献42)に「天」の文字は人の正立した形で説文に「天は

顛なりとあり人首、人頭の意」天の始まり、横「一」画下「大」の文字も大人の正立

した形とありますが『大漢和』には「天」は造化の神・無為自然の道・大きい・とあ

る。また「大」は天とあります。この項、「天」の文字解釈は本書「寶」に添えた一考

察で、この道理は、この章16項、「印文」完璧秘密防衛の道理で指し示す予定です。