「寶」の道 (八)
・陶磁器に果たして文字は彫れるのか
この事も経験の無い私には、確かめる必要があった
何人かのハンコ屋のご主人にお聞きしたが、皆さん色々な材質で彫った事はあるが陶磁器
の経験が無いと言う
しかも陶器ではない、磁器です
約1300度で焼き固めた材質です、自然石より硬い!彫る鑿も大変だ、相当難しいだろ
うナとの感想であった
私はこの初期段階で、なぜ焼き上げの後から彫ったのかとの疑問にはまだ至らなかった
通常印は文字が鮮明です
しかし「寶」が皇帝の玉璽にしては文字が不鮮明の印象を受ける
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印面を見れば焼き上げた後に彫った事は一目瞭然です
獅子の造形を見ても分かるとおり、これだけの焼き物を焼く技術があれば、焼成前に
文字を彫って焼き上げれば、鮮明な文字が浮ぶ筈です
しかも、篆刻困難な陶磁器に文字を彫る必要も無い
この疑問は私の心の中で絶えずくすぶっていたのです
私の解決出来ない不安、要因の一つでありました
しかし「寶」執筆解明の段階で、その謎が一瞬にして解けるのです
約27年間の歳月をかけて焼き上げた皇帝の神器・太極「寶」であった
「寶」は何十万個、いや何百万個焼き上げた中の、奇跡の一個です
老子の再来と謳われた、道教の最高導師、司馬承禎が考案した奇跡の文言です
まさに漢大宇宙を「九文字」に“太極”した“神の文字”であった
唐朝の宗廟に祀る神器であった
壮麗な大伽藍を建造し、その神殿に唐朝の神器として祀る「寶」であった
延べ何百万人・何千万人の職人が携わる
この神の文言が彼らの目に触れてはならぬ
私の疑問は執筆中に電撃的に解けた
「寶」製作期間が唐代、開元(太極)〜天寶の30年間なのである
焼成に約27年間、文字の篆刻に約3年を要したであろう
当時私の脳味噌はグラグラ沸騰しつつ、それでいて氷のような冴えがあった
“熱と冷”が太極されたような脳状態であった
平成19年2月24日