第六章(二)『九畳篆と唐代璽印』
『原色陶器大辞典』(文献45)の陶印の項の記述により、私が最初に疑った、北宋の風
流天子「徽宗皇帝」が編纂したと言う中国最古の印譜『宣和印譜』は、今は現存しないと聞きます。
『東西印章史』(文献98)に「寶」界の文字に特徴的に見れる九畳篆は、隋唐の頃より
官印に多く用いられたとあります。
『篆刻の歴史と技法』(文献21)末尾に載る、時代別「官印」の印譜をご覧ください。
「奏」「漢」「魏普六朝時代」「唐」「金」「元」「明」と、九畳篆に絞ってその変化を見る
と、唐代で一目瞭然に分かれています。
九畳篆は「寶」の道理が法理となり、以後の官印の規範となったのです。
正に「寶」に象した「界」の文字に秘めた「龍」、これが後世の官印に、決定的な影響を
与えたのです。
この九畳篆の明確な時代変化にも、「寶」の製作年代が鮮明に浮き出てくるのです。
「寶」と、玄宗皇帝の“勅令”の威力に、ただただ言葉を失うばかりです。
平成19年3月7日
『中国書画落款集』(文献19より転載)
上記六印は唐代の璽印です
原本は作者不明で内閣文庫に蔵されてあったとあります
もち手の紐は全て神獣で、文字の形態は「開元」の小璽以外、「寶」
との時代の類似性が見られます。
初版本には、この六印の解説も交えかなり突っ込んだ内容で展開したの
ですが、最早、この様な視点から「寶」を既に論じても意味は薄いくな
りました。
読者に唐代の璽印の雰囲気を感じて戴くために掲載致しておきます