第五章(一) 『神々と印と星の考察』
太古より人間は、その時々の喜びと悲しみ、また遠い昔と未来を思いやる時、夜空を見
上げ、その願いを星に祈り、遠くに光るその星を“願い星”として万の神々と重ね合わせ
てきたのでしょう。
中国文明の偉大な創造として漢字が挙げられますが、『大漢和辞典』の「漢」の語訳をみ
ると、冒頭に“天の川”とあります。
さすれば「大漢」とは漢字の大宇宙のこととなります。
太古に「無・○」“太極”を両側から“ビーン”と引き伸ばし、「一」の文字と卦す。
天を示す「一」陽は「二」に分離する。
○は「一」となり、そして陰陽の「二」の文字、天と地をまず形どる。
そして天地、陰陽を現す「二」の狭間に「人」が生まれ「天」の文字が象形さます。
天・地・人、三才の大自然界が“天”の一文字に“太極”(象形・凝縮)される。
「一」 の交合の大河、それが「漢」の意味“天の川”であろう。
『大漢和』に込められた著者諸橋博士の祈りは、漢字の大宇宙を天高く指し示すことだっ
たのでしょう。
紀元約100年、中国史上最初の字典『説文解字』を編纂した許慎は、その字典を分類し
て「寶」の全九文字、そして中央「老」六画と同じく陽極「九」陰極「六」を交合させた
6×9=54に基づき字典を「五百四十」に分類して「寶」に秘めた陰陽五行思想の哲理
を基に『説文解字』を編纂したと言われています
『易と日本の祭祀』(文献2)で吉野裕子博士は、「易」について深い洞察をもって平易に
解説しておられ、数々の著書は本書を理解するための道標であり“必見の書”でありまし
た。
著書の中で、易の陰陽の“はたらき”天・地・人の三才について明快に説明なされておら
れます。
その中で「易」の陰極の数は「六」陽極の数は「九」と述べられておられます。
正に「寶」の中央「老」の文字は“六画”で、陰極の数であり大地の中央に鎮座してい
ます。
また「老」の神字は漢大宇宙、中天に星座して、陰極ですから“夜空”の遥か“玄”の彼
方で瞬いています。
陰の極数が中央に配当されるのは、直感的に不自然さを感ぜられる方もおられるでしょ
うが、しかし考えるに、人は母の体内より生まれ、万物全ては母なる大地より生じます。
地は陰であり女性ですが、その上昇進化したものが男性と想像します。
道教ではこの陰の極なる「六」の幽玄を「玄牝之門」「衆妙之門」と称しています
万物生成の「玄」なる極地です
ちなみに、「玄」は玄宗皇帝の「玄」です
『大漢和』に「玄」は「黒色」「天の色」
「黒」は北の色で獅子の目も黒の焼き付けがなされてあります
「玄聖」は「老子」・「玄帝」は「天帝」とあります
「玄」は五画で韻文中央五文字に玄宗皇帝は北の天帝北極星に星座している事になります
話を元に戻します
龍と獅子一体の白澤を観測すると、腹の鱗は陰極六枚、背は九枚、陽極です。
そして印文の篆刻は文字となる「陽刻」彫りですが、その陽を浮き出す影は陰の宇宙な
のです。
即ち陰陽が表裏合体し、陰極の「六」と陽極の「九」が、交合しているのです。
吉野博士が唱えられる交合、星の瞬きであり、正に極と極が感応し、交合状態で点滅し
巨大な光を発しているのであります。
さらに「太上老君」である老子は、日に九度、姿・形を変える“変幻の術”を使うと伝
説にあります、絶えず変化し活動しながら瞬き、光を放っているのです。
中央「六」の陰極の数は、万物発祥の地でマグマの如く、再生活動を活発におこなって
いるのです。
そして、その老子「六画」「六数位」は変幻の術を使い、もし万に一つ完璧さが欠けたり、
整合しない不確定な状況が生じた場合、何時でもあらゆる数位に変身し補完する、正に“神
の数位”なのです。
おそらく、神字「老」は老の文字の原形に、「北極星」を重ね合わせた、象形文字、道教
の最高神「元始天尊」の巨大な光と考えます。
この「北極星」道教では、天帝が宿る最高の星座と記憶ください
この「寶本」の神髄とも言うべき、漢大宇宙の扉を開いて戴いた吉野博士に、この場を借
り厚く御礼申し上げる次第です。
重ねて印面中央中天に星座する「老」の文字は漢大宇宙の不動の北極星です
まさに篆刻辞典にも載ってはいない印面の“神字”「老」は史上初めて公開される象形文字
です