太古に文明が発生した頃より、黄土高原から注ぐ黄河流域に広がる広大な土地で、中国人は生計をたてました。農耕の民にとって、自然の猛威・天変地異・病気・その他の不幸不運は、神々への不敬の証しと考え、その対象となる「雨」「風」「雷」「山」「河」等の自然の神、「肝」「心」「脾」「肺」「腎」の人体に宿る神、吉凶を示す星々の神、その他様々な神々を人々の祈りと共に誕生させました。
そして幾千年にわたる治乱興亡の歴史、苛酷ではかない運命の中で、自然発生的に現世利益や、また不老長生などを願い祈ってきました。
この風土と歴史の源泉から、自然崇拝・神仙説・陰陽五行思想が合流し、道教の原形が醸成されてきたものと考えられます。そして春秋戦国期を経て隋唐五代の頃、儒家の祭礼や仏教・道家思想などが重層複合し、教祖を伝説の聖帝「黄帝」と戦国期の思想家「老子」とし、道教はその宗教形態を大成しました。
この教義の中心命題は「自然の道」であり、自然的な生き方・生きる上での、心の処し方などを説くものです。この道教は唐代、皇帝が教祖「老子」と同じ「李」姓であった為、国家宗教となり、著しく整備補完され、道教は黄金期を迎えます。
以後、この中国文化の複合体とも言える道教は、時代の中で盛衰を繰り返しながらも、「思想」「哲学」「歴史」「芸術」「科学」と、あらゆる分野に影響を与えながら、中国民衆の土着の宗教として、今日に伝えられました。 現在、信徒は世界で約三千万人と推定され、仏教・キリスト教などから見て、信徒は少ないが、世界に活躍する華僑や華人に深く信奉され、その文化的影響は東南アジア全域に及んでいます。
この信徒の少なくなった原因のひとつとして、近代に本家「中国」での革命の嵐により、破壊と圧迫をうけたことが大きく影を落しています。しかし、漢民族が抱く心の大黄河とも言える道教は、再び今その活動を再開したようにみえます。 今日、若者にも人気のある、「風水」「人相術」「易」等の占いは、道教の方術でした。
又、医薬の術に、体のツボに施す「針灸」、薬草の「本草」、気の柔軟体操、「道引」と、我々も道教の領域と知らずに接しているものが、数多くあります。さらにこの道教は、かって隋唐の遣使達により伝えられ、日本国の開闢期より思想・文化の地下水脈として、諸々の影響を与えたのでした。
神噐・太極「寶」は以上に述べた、道教の歴史に遡る、最高道主が秘蔵したであろう幻の“法印”でもあります。
平成12年4月13日
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