9 易・陰陽五行
 「寶」は印鑑である。
 印章の世界に“方寸間、気象万千”の諺があると聞く。
 この話しは先輩が昨年沖縄へ旅し琉球王朝の印鑑の説明書を持ち帰り急ぎ私に知らせてくれた諺です。
 まさに「寶」方寸の印面宇宙は“気象萬千”印面宇宙は▲大元気です。
 唐代・中国文化の黄金期の宇宙観は、混沌・易の太極を太上に戴く、陰陽五行の宇宙観でありました。
 印面の「日界・月界・太上老君勅」の九文字「日界」「月界」は、この古代より伝わる陰陽思想を示しているのは明らかであります。

 この陰陽思想を更に推し進めた自然哲学に「木火土金水」の五行思想があります。

 この「陰陽思想」と「五行思想」が唐代・文化の黄金期・神噐「寶」の陶磁器で、史上始めて“具現”され、以後の中国思想の不動の基が形成されたのであります。

 印文・中央「太上老君勅」は五文字であります。
 そして、この神噐「寶」は陶磁器です。
 焼き物は五行の▲五材すなわち木火土金水をもって神噐の道具が具現された。

 即ち陶磁器は、木を燃やし土を水で捏ね、金鉱物で陶磁器の色付けをする。 五行の相生相剋の循環、火神の賜りです。
 まさに、神噐「寶」は、この「易」・「陰陽」「五行」の宇宙観その太上に輝く、極「一」“太極”を印した驚異の文言・そして焼き物です。
 「易」は中国古代の▲聖帝「伏羲」が天地の理を八卦し、遂に64卦に大成したと言う。
 中国古代の宇宙観、原初唯一絶対の存在「混沌」を、易では“太極”と言う。

 この宇宙創造以前の原初、混沌の“陽の気”が上昇し「天」と成し“陰の気”は下降して「地」と成し“天と地”が形成されたという。
 陰陽は気象萬千・気の現象を示しているに対し、五行はいわば自然哲学とも言える。
 この中国古代の「易」と「陰陽五行思想」をもって日本の神事・風俗・風習・祭りごとを照射し、日本民俗学の未踏の地を歩まれておられる方が吉野裕子博士です。
 お名前を掲げさせて戴くのも、恐れ多いお方です。   
 吉野博士の▲数々の著書は『大漢和辞典』と共に「寶」本およびこのホームページ「大和」の羅針盤です。
 私ごときには、遥かに及ばぬ世界であり、この「大和」運行の標として、度毎に博士の玉著を参照させて戴く事をお許し願います。
 乗船の皆様は、この神噐「寶」は、陰陽・五行思想の哲理を、具現した至宝である事を絶えず念頭に置いて読み進んでください。

平成12年4月19日